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第28回 新井宏昌 「目標を設定し、それに向かって努力することが大切」

―南海ホークス(現・福岡ダイエーホークス)は昭和49年秋のドラフト会議で、日米大学野球で活躍した法政大学の新井宏昌氏を2位指名した。


プロ野球に行きたい、そう思ったのは中学2年のときだったですね。甲子園に行ける可能性の高い高校へ進んで、大学は東京6大学、その後はプロで野球をやりたいと、そういう大変な夢を抱いちゃったんです
中学の野球部は府大会で優勝するような強いチームだったから、いろいろな高校から勧誘があった。担任の先生は、甲子園なんてなかなか行けないから公立へ進めといったんですが、僕はもう自分の夢に酔いしれていますからね、先生や両親の反対を押し切ってPL学園に進学した。そして実際に外野手として甲子園大会に出場して、準優勝のメンバーにもなったんです。
大学もいろいろなところから誘われたんですが、そこはやっぱり夢の東京6大学ということで、最終的に法政大学への進学を決めた。そして2年生のときに外野手のポジションを手に入れ、4年生のときには日米大学野球の日本代表にも選ばれたんですね。
それで夢の最終段階、プロ野球へということになったんですが、ところが、ドラフト会議の前日になっても、どの球団からも挨拶とか、事前の打診というのがなかったんです。ドラフト候補ということでスポーツ新聞には名前が載るんですが、どの球団も接触してこない。
いまにして思えば、体格的に見劣りするので、大学野球では通用するけれどもプロでは無理だろうと、そういう判断があったんだろうと思います。身長174センチ、体重も62キロ程度で、いまのイチローより痩せていましたからね。
ドラフト会議当日は、大阪市内の実家に帰っていました。ところが、ドキドキして自宅にジッとしていられない。だから市内をぶらぶら歩いて、夕方、意を決して自宅に電話をしたんです。そうしたら「南海が2位に指名してくれた」と。それを聞いたときは本当に身体が宙に浮くような、とにかく嬉しいという感覚がありましたね。なにしろ中学2年からの夢がついに叶った瞬間だったんですから。


―ドラフト2位指名は、当時の監督、野村克也氏の決断だった。日米大学野球のテレビ中継を観ていた野村監督は、バッターボックスに立った新井氏の所作をみて「こいつはいいバッティングをする」と、スカウト陣に語ったという。


プロに入ったときは、自分の体格、体力というのがわかっていましたから、お金を稼ごうとか、有名になろうとか、そういう考えは一切持っていなかったですね。守備要員、代走要員でもいい、とにかく1度でもいいから1軍の試合に出たいと。それが叶ったら、もうそこで野球人生が終わっていいぐらいのことを本気で思っていたんです。
ところが、1年目のオールスター明けに1軍で故障者が出て、その補充要員として1軍に引き上げられた。そして平和台球場で試合前の練習をしていたら、野村監督から「オッ、おまえ元気そうやな。今日スタメンでいくか」といわれて、そのまま1番バッター・ライトで試合に出してもらったんです。プロ初打席はバントヒットで、守備もまあまあ無事にこなしたら、翌日からレギュラーに定着して、以降、南海ホークス、近鉄バファローズを通じて18シーズン、1度も2軍落ちを経験しないまま、プロ野球人生を全うさせてもらったんです。


―プロ入団11年目、それまで順風満帆の野球人生を送ってきた新井氏は、はじめて大きな挫折を体験する。打撃フォームを崩して極度のスランプに陥った新井氏は、シーズン終了後、球団から減棒かトレードかの2者択一を迫られて、結局、近鉄バファローズへの移籍を決断する。


先輩から「外野手ならもっとホームランを打たなきゃいけない」といわれたのが、スランプに陥った原因だったですね。バッティングに余計な力が入って、いままでヒットにできたボールが全部ポップフライになる。ところが、近鉄に移って打撃コーチの中西太さんが僕のフォームを見て、「力が入り過ぎている。ボールをポイントまで呼び込んで、しっかり叩け」とアドバイスしてくれたんですね。そのたったひとことで僕はスランプから脱出できたんです。近鉄2年目には3割6分6厘の打撃成績を残して、はじめて首位打者のタイトルを獲得したんですが、まさにあれは中西さんのお陰だったですね。
まあ後輩にひとことアドバイスするとすれば、「夢を捨てるな」ということですね。夢をもって精進すれば、誰かが必ずそれを見ているし、助けてくれるということでしょうね。


財団法人 産業雇用安定センター刊「かけはし」
2002年4月号より抜粋

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