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第14回 柴田 勲 「日々の地道な積み重ねこそが選手を大成させる」

―甲子園で夏春連覇を達成した法政2高のエースとして、鳴り物入りで読売ジャイアンツに入団した柴田勲氏。しかし、昭和37年のシーズンがはじまって早々、川上哲治監督から言い渡されたのは外野手・スイッチヒッターへの転向だった。


37年のシーズンは阪神タイガースとの開幕2連戦ではじまったんですが、その第2戦に先発で出されたんです。確かにオープン戦の成績はよくて、防御率はたぶんチームで一番よかったと思います。それで高卒ルーキーの僕が先発ピッチャーに抜擢されたと思うんですよ。
この試合は5回3分の2を投げて、3点取られましてね。それが全部ホームランで、結果的には3対1で負けたんです。今だったら、高卒ルーキーが初登板で5回を投げて、それで3失点だったら、まあまあの成績じゃないですか。ところが、それっきりなんですよ。全然先発のお呼びがかからない。どうなるのかなって思っていたら、6月ごろですね、突然、監督に呼ばれて「君、スイッチヒッターになれ」っていわれたんです。
自分としては甲子園で夏春連覇をしたピッチャーだし、なんとしてもピッチャーで大成したいという気がありました。しかし、川上さんは「君は球が軽い。プロのピッチャーとしては無理だ。しかし、君にはバッティングセンスと足がある、だからスイッチヒッターになれ」と。もう監督からそういわれたら反論できない。「わかりました」といって引き下がるしかなかったですね。


―右投げ右打ちだった柴田氏は、日本初のスイッチヒッターになるべく猛練習を行い、その結果、翌38年のシーズン開幕時には外野手・1番バッターの定位置を確保する。


スイッチヒッターといったら、当時は大リーグ・ドジャースのモーリー・ウィルスという選手が有名だったですね。バットを短くもってピッチャーの足元に強いゴロを打つ。それで足を使って出塁し、今度は盗塁を狙って攻撃のチャンスを広げるという選手だったんですが、川上監督は「ウィルスみたいな選手になれ」というんですよ。
でも、いまと違って大リーグの情報なんか入ってこないし、実際の映像もない。じゃあ、どうするかといったら、もう手探りで、いろいろ試してみるしかない。まず左利きに慣れるために日常生活のほとんどを左手でやってみたんです。これは結構難しいんですね。でも、習うより慣れろという言葉どおり、左手を使いつづけると、だんだんスムーズに左手が動くようになっていくんです。ただ、左手が器用に使えることと左打席でボールを打つということは基本的には違うんです。
プロ野球のピッチャーが投げるボールを左で打つためには、やっぱり左でバットを振りつづけて、スムーズに身体が回るようにしなければいけない。だから当時は、とにかく四六時中バットを握って振っていたと、そういう記憶がありますね。


―赤い手袋をはめて塁間を駆け抜けた柴田氏は、現役20年間で6度の盗塁王に輝くなど、盗塁のスペシャリストとして知られている。しかし、その盗塁は、制約の多いかなり厳しい状況下で敢行されていた。


ほとんどの人は、僕が自由に、自分自身の判断で走ったと思っているんですね。しかし、盗塁するしないは全部ベンチの判断なんです。ベンチから「走れ」というサインが出たら、どんな状況下でも走らなければいけない。
もちろん相手側のバッテリーは僕が走ることを警戒しているから、なかなか走る機会を与えてくれない。しかし、迷って走らないでいると次のバッターのカウントが悪くなる。だから、もんのちょっとした隙やクセ、それをついて走るんですね。
僕の場合、盗塁の成功率は6割以上ですね。それぐらいの成功率を維持していないと、だいたい盗塁のサインは出ないんです。じゃあ、なぜ高い成功率を維持できたかといえば、やっぱり日頃からの準備ですね。
ベンチのなかから相手のバッテリーの動きをずっと観察していて、そのクセとか配給パターンを探っておく。そして何かみつけたら、それを忘れないようにメモしておく。そういった地味な作業が、ここぞという場面でやっぱり活きてくるんです。
僕なんか、よくマスコミから「練習サボって夜遊びばかりしている」って批判されましたが、やっぱり毎晩バットを振ったり、データをつけたり、人並みにやることはやっているんです。
そういうことをやってなけりゃ、どうしたって20年も現役はつづけられないのです。素質だけじゃ長くはつづけられない世界なんです。


財団法人 産業雇用安定センター刊「かけはし」
2001年2月号より抜粋

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