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第13回 小山正明 「全盛期にこそ次なる備えに取りかかれ」

―兵庫・高砂高校3年生の夏の大会は、洲本高校という強豪校に当たって県予選1回戦で敗退。普通ならそれで部活動は卒業だが、野球を諦めきれない小山氏は、それでもグラウンドに出て後輩たちとピッチング練習をつづけていた。


兄貴は野球をつづけることに反対だったですね。大学に行くなら早く野球を辞めて勉強に専念しろと。ところが、親父のほうは理解があって「そこまで野球が好きならとことんやってみろ」と、たまたま、うちの遠縁だった野田誠三さん、当時の阪神電鉄の社長で、阪神タイガースのオーナーだった方なんですが、その野田さんに紹介状を書いてくれたんです。
プロ野球は実力の世界ですから、親戚といっても力のないものは採れない。だから早く目を覚まさせてやるつもりだったのかもしれませんが、すぐに「テストしてやるから甲子園に来なさい」という返事がきたんです。昭和27年の10月半ば、甲子園に呼ばれて、ピッチングのテストを受けたんですが、監督の松木謙治郎さん、看板バッターの藤村登美男さん、エースの梶岡忠義さんなんかが周りに集まってきて、非常に緊張しながらボールを投げたことを覚えています。


―183cmの長身から投げ下ろすストレートに威力があり、小山氏はテスト生としてタイガースへの入団を許された。


昭和28年に同期で入った仲間には、後にバッテリーを組んだ山本の哲(哲也氏)ちゃん、サードを守った三宅の秀(秀史氏)さん、それから牛若丸の吉(吉田義男氏)さんなんかがいましたが、彼らはみんなスカウトが出向いて、契約金も貰って入ってきた連中ですよ。ところが、僕の場合はテスト生ですから契約金はなし、月給も5000円という待遇だったですね。当時、大卒の初任給が一万円ちょっとの時代ですから、まあ安かったんですが、それでもタイガースのユニフォームを着て、野球をやれるってことが嬉しかった。


―テスト生から出発した小山氏は、オープン戦での好投が認められて二軍登録選手となり、さらに8月半ばには一軍に登録されて、晴れてプロ野球のピッチャーとしてマウンドに立つことになった。


1年目は2ヶ月ちょっとで5勝2敗、翌29年のシーズンは途中で故障したものの11勝というように年々成績が上がっていって、33年から3年連続で20勝以上という勝ち星を上げたんですが、これは身体つきが子どもから大人に変わっていったことと、いわゆる投球術、これが経験の積み重ねによって向上していった結果だったと思うんです。
プロ野球のピッチャーが1シーズンを通じて投げ通すためには、やはりそれなりの基礎体力が必要なんですね。もちろん春のキャンプのときに投げて投げて投げ抜いて1年間の肩とコントロールをつくり上げるわけですが、それにもまして重要なのが下半身の強化なんです。
僕のようにテスト生上がりの選手が、高校や大学、社会人出身のスター選手と互角に戦っていくためには、やはり伸びのあるストレートと絶妙なコントロールを身につけるしかない。じゃあ、そのためには何をするか。ボールは上半身で投げるんですが、その上半身の投球動作をピタリと狂いもなく支えるのは鉄壁の下半身なんですね。だから僕は、春のキャンプのときは、他の選手が10回走ったら20回走ってやろう、15回走ったら30回走ってやろうって、常に人の倍は走るようにしていました。子どものころに「人並みのことをやっていたら人の上に出ることはできない」って、よく親父にいわれていたんですが、それを実際に実行に移してみたら、確かに毎年、ストレートの伸びとコントロールは良くなっていったんです。


―最速150キロ超のストレートボールを投げていた全盛時代、小山氏は新たな武器「パームボール」の練習をはじめる。


まだ余裕のあるときに次の備えをつくっておきたかったんです。で、フォーク、ナックル、パームボールといろいろ試してみて、そのなかでパームボールが一番負担が少なく、リリースしやすく、コントロールもつけやすいと。それでパームボールを徹底的に投げ込んで自分のものにしたんです。ただ、セ・リーグ時代はジャイアンツのワン(王貞治氏)ちゃんだけにしか投げなかった。彼には随分ホームランを打たれたけれど、パームを使ってからは、多分1本も打たれていないんじゃないかな。
そして、39年に東京(ロッテ)オリオンズに移籍してからパームを多投して、そのシーズンに30勝を上げたんです。ですから全盛期にこそ、次なる備えを構築しておく必要があると思うのです。


財団法人 産業雇用安定センター刊「かけはし」
2001年1月号より抜粋

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