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名球会コラム しごとの風景 - 職業としての野球

第1回 金田正一 「何をなすにもまず準備運動」

―昭和25年8月、夏の甲子園予選で敗れた金田氏は、そのまま高校を中退して、17歳で国鉄スワローズに入団する。


プロ野球がセ・パ両リーグに分かれて、はじめてのシーズンだった。国鉄スワローズもできたばかりで、国鉄の東京鉄道管理局とか、名古屋鉄道管理局とか、そういったノンプロの選手たちを寄せ集めてつくったチームだから、いわゆる核になる選手がいなかった。そこへ高校を中退して、17歳で入団していったわけですよ。
もちろん周囲は大人ばかり。最初はガキ扱いをするような先輩もおりましたよ。でも、野球は歳でやるもんじゃない、身体でやるんだと。身体が大きくて速い球を投げられたら、どこに遜色があるんだと。球場に入ったら先輩も後輩もあるかって、結構、突っ張ってプロの世界に入っていったわけね。
それで25年のシーズンは9月、10月の2か月間で8勝を上げ、翌26年のシーズンはフル出場して22勝をあげた。もう誰も私のことをガキ扱いなんかできないですよ。実績をあげたもののほうが上、それがプロの世界なんです。


―金田氏は26年のシーズンから14年連続20勝以上の成績をあげつづける。とくに31年からの3年間は、沢村賞、最多勝、最優秀防御率をほぼ総なめにするなど、最も脂の乗り切ったピッチングを披露した時期だった。


18歳からずっと20勝以上だからね、お金も入ってくるし、チヤホヤもされる。お酒も女性も遊びも覚えていく。で、生活は遊び呆けてグダグダなのに、それでも試合には勝つんだね。 そんなときに「もったいないなア」と、ある人からアドバイスをもらったのね。たまにはお前、野球に興味をもってやったらどうだと。
自分でも内心思っていたんだよね。本気になって野球をやったら、いったい自分はどこまでいけるだろうかって。それで遊びを一つずつピタッピタッとやめていって、いわゆる野球中心の生活をはじめてみた。そうしたら自分の思うとおりの、いわゆる会心のピッチングというのができるようになっていた。
それでどんどん勝ち星をあげていくと、今度はもう落ちるのが嫌になるのね。負けるのが嫌になる。で、負けないようにするにはどうしたらいいかといったら、さらなる努力と節制しかないと。そうして生活のすべてを野球に振り向けた結果が、あの23歳からの成績ですよ。


―「球界のワンマン」といわれた金田氏は、また「トレーニングの鬼」と評されるほど、激しい練習を自らに課した選手でもあった。ある著名な野球評論家は「あれだけ凄まじいトレーニングをやった選手は、金田以前にも以後にもいなかった」と語っている。


たとえば、自分と同じぐらいの体重の人を背負って、山に登ってまた下りてくる。誰も真似ができない。真似をしようとすると足首を捻挫したり、ひざを壊したりね、みんな潰れちゃうんですから。で、どうして私だけがそういう凄まじいトレーニングができるかといえば、単純明快、準備運動を怠らないからなんです。トレーニングする前にも、事前にみっちりと準備運動をする。だから、はたからみたら信じられないようなトレーニングでも、ケガ一つしないでできるんですよ。
夜寝るときから、ぐっすり眠るための準備運動。朝は布団を出る前から起きるための準備運動、食事のときも準備運動、トレーニングをするときも準備運動。そうやって生活を整え、身体を鍛えて、試合に向かって準備していくわけ。いついかなるときでも戦いに向かって備え、整えるんです。この「いつも備える」というのが金田野球であり、わが人生なんです。 サラリーマンというのは、私たち野球人と違って、本当に過酷な世界で生きていると思う。
実績さえ上げればいいじゃないか、という世界ではないからね。しかし、自己管理の大切さという点では、プロ野球でもサラリーマンの世界でも同じだと思うんですよ。
普段よりも早くグッスリと寝て、朝はすがすがしく起きて朝食をきちっと食べる。そして普段よりも30分でも1時間でもいいから、早く会社に入って、仕事の準備運動をする。それをつづけるだけで自分を取り巻く環境はがらりと変わってくる。生活から仕事から、すべてが変わってくるわけね。これは実践してきた者がいう言葉だから本当なんです。だから準備運動、すべてが準備運動なんです。


財団法人 産業雇用安定センター刊「かけはし」
2000年1月号より抜粋

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