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第26回 高木守道 「プロの凄味を伝えることもファンサービスの1つ」

―中日ドラゴンズは昭和34年暮れ、東海の強豪といわれた県立岐阜商業高校3年の高木守道氏と入団契約を交わし、内野守備はすでにプロ級といわれた天才球児の獲得に成功した。


そりゃ県下で最も強い高校で1年生から2塁手のレギュラーポジションを取って、甲子園には1年生の夏、そして3年生の春には3番バッターとして決勝戦まで行きましたから、端からみれば、プロ入りも当然のことと思われるでしょうが、実際、僕自身は、プロから誘われることなんか絶対にないって最初から諦めていたんです。
というのは、高校に入ってすぐに右肩を壊してしまったんです。軟球のつもりで硬球を扱って、それで肩を抜いてしまって速い球が投げられなくなった。僕はもともと草野球、そして中学の部活動と、ずっとショートストッパーをやってきたんですが、肩を壊したために1塁へのロングスロー、速い送球ができなくなった。それで1塁ベースにより近い2塁手のポジションを与えられたんですが、2塁手になっても基本的には、速い球が投げられないという同じ問題を抱えていたんですね。
子どものころから内野守備の名手といわれた阪神タイガースの吉田義男さんに憧れて、夢中になって内野守備の練習をやってきたんで、打球を捕って1塁に送球するという一連の動作は速かった。だから、その捕球技術の速さで球の遅さをカバーできたんですが、それは高校野球のレベルの話であって、プロでは到底通用しないだろうと、もう2年生のころにはそう思ってプロ行きを諦めていたんです。
それで野球部のルートで早稲田大学への進学を決めた、ちょうどそのときに突然、ドラゴンズから「うちに来ないか」という話があった。そりゃ嬉しかったですよ。とにかくプロが僕を誘ってくれたこと、プロ野球選手になれることが無茶苦茶嬉しかったですね。


―ルーキーシーズンの35年開幕から守備要員として1軍メンバーに加えられた高木氏は、5月にはプロ初打席本塁打を放って本格デビューを果たした。しかし、2塁手としてシーズンフル出場を果たすまでには都合3年の月日が必要だった。


プロの世界に入って、まず春のキャンプに参加しますよね。先輩たちに混じっていろいろな練習メニューをこなしていくんですが、走塁では僕がトップだった。そして守備でも肩のハンデはあるものの、ボールを追う守備範囲の広さと、捕球から送球に移るスピードの速さでは、まず先輩には負けなかった。そこらへんが目立って守備要員として1軍に抜擢されたと思うんですが、ただ、バッティングだけはだめだったですね。
まずストレートのスピードが高校生と全然違う。それから変化球のきれ、もう圧倒されるような曲がり方、落ち方をするんですよ。こういうプロのピッチャーの投げる球に最初のころは全然ついていけないんですね。
それで、なにをやったかといえば、とにかくバットをコンパクトに最短距離で振るということ、素振りですよね。それと相手ピッチャーの観察。いちおう1軍のメンバーですからベンチに座って相手ピッチャーの投球動作を観察することができる。じっくりと見ていると、球種によって頭の位置とか腕の位置とかに微妙な差があることがわかってきたんです。それからキャッチャーの配給にも癖がある。そういう癖とか傾向を1つずつメモにとって自分のデーターとして積み上げていったんです。そういうハードとソフトの地道な積み重ねが、4年目にパッと花を咲かせたということなんでしょうね。


―入団4年目、38年のシーズンに1番バッター・2塁手としてフル出場を果たし、盗塁王のタイトルを手中にした高木氏は、以後、ドラゴンズの攻守を支える中心選手として長く活躍を続けていく。


僕はバッティングも好きだったし、盗塁も好きだった。でも、1番好きなのはやっぱり守備だったですね。ランナーが1塁に出たら、とにかく次打者の打球は俺の前に飛んで来いと。飛んできたら捕球しざまにバックトスして、ダブルプレイをとってやる。そしてお客さんをワァーッと沸かしてやると、常にそういうことを意識しながらプレイしていました。
そして、ここが肝心なんですが、お客さんがワァーッと沸いたら、僕自身は知らんぷりしてゲームに戻るんです。観客と一緒に喜びや感動を共有しない。「えっ、どうしたの。こんなのプロなら当たり前だよ。」という感じで、わざと感動の余韻を切ちゃうんです。ジャイアンツの長嶋茂雄さんとはまったく逆のスタイルですが、こういう形でプロのレベルの高さ、凄味を伝えることも。僕はファンサービスの1つだと思って意識してやっていましたね。


財団法人 産業雇用安定センター刊「かけはし」
2002年2月号より抜粋

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