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第19回 駒田徳広 「地道なヒットの積み重ねが信頼感を生む」

―昭和55年秋のドラフト会議で、読売ジャイアンツは高校通算で43本塁打、打率4割9分0厘という驚異の成績を残した高校生を2位指名した。地元新聞が「奈良のマニエル」と呼んで絶賛した長身の高校生、それが奈良県立桜井商業高校の駒田徳広氏だった。


ドラフト前にはプロ10球団のスカウトの方が挨拶に来られたんですが、何が何でもプロ野球に進みたいとは考えていなかったんです。当時のドラフト会議はウェーバー方式で、高校生は指名されるだけで、選択する権利がまったく認められていなかった。だから在京球団から指名されなかったらプロに行くのはやめて、東京の大学に進もうって考えていたんです。
僕は奈良盆地の真ん中、周りは田んぼと畑ばかりという環境のなかで育ってきたんで、東京への憧れがメチャクチャ強かったんですね。プロ野球にしろ大学にしろ、やるんだったら東京でやらなきゃいけない。日本でいちばん目立つところは東京だし、東京に出なければ何もはじまらないって、そう強く思っていたんです。


―ジャイアンツでの最初の2年間はまったくのファーム暮らし。バッティングに迷う日々がつづいたという。


高校生の投げる球というのはせいぜい130キロ台なんですが、プロ野球は140キロ台が普通という世界なんです。僕みたいに我流で育ってきた選手は、この140キロ台の球速に対応できる打ち方が身についていないんです。だから入団して2年間はずっとファーム暮らしだったですね。
まあ当たれば大きいのを打ってましたから、周囲も期待していたんだろうと思いますが、監督やコーチ、それから練習を見に来られるOBの方なんかが、ああやって打て、こうやって打てと、いろいろアドバイスをしてくれるんです。ところが、みんな同じならいいんですが、違う部分も結構あるんですね。それを真剣に考えているうちに迷いが出て、バッティングの調子がさらに悪くなってくる。
そんなことを繰り返しているうちに、2軍の打撃コーチをやっていた町田行彦さんが「もういいよ、迷うな」って声をかけてくれたんです。「お前のバッティングは確かに粗削りで三振も多い。だけど3回3振しても、4回目はホームラン打つんじゃないかと、そういう期待をもたせるバッティングなんだ。だから、そのままでいい」といってくれた。この町田さんの言葉で長い間の迷いが吹っ切れたんですよ。


―58年の開幕第2戦で、駒田氏はプロ野球史上はじめての初打席満塁本塁打を放ち、一躍「満塁男」として有名選手の仲間入りをする。


打席に立つと観客席から「満塁男」「ホームラン」といった歓声が起こる。で、僕も若いからその歓声に応えるようにフルスイングでバットを振る。でも、そういうバッティングをやっていると打撃成績に大きなブレが出てくるんですよね。で、いまいち信頼感に欠ける選手だと、そういう印象を首脳陣にもたれてしまって、結構長い間、準レギュラーの扱いが続いたんです。
それで入団6年目にバッティングをホームラン狙いからヒット狙いにハッキリと切り換えたんです。僕は高めのボール球に手を出すわ、空振りはするわで、見た目が非常に荒いバッティングをしていたんですが、そういう打ち方で2打席、3打席と凡退すると、もう4打席目は代打に変えられて、次の日の試合にも出してもらえない。じゃあ、試合に出してもらったら1本でも多くヒットを打とう、ヒットを打ちつづけていれば次の試合にも出してくれるだろうと、そう考えてホームランを狙うのをスッパリと諦めたんです。


―入団8年目にはじめてフル出場を果たした駒田氏は、以後、年間150本近いヒットを量産する中軸バッターとしてジャイアンツ打線を支えつづけていく。


平成5年のシーズン終了後に、フリーエージェント宣言を行って横浜ベイスターズに移籍したんですが、そのきっかけになったのは、チーム事情もあってトレード要員に挙げられたことなんですよね。実際にトレードに出されたら、行き先は望んでいないパ・リーグのチームだし、また交渉がうまく行かなかったら、そのままジャイアンツに残って野球をつづけなくちゃならない。そうなったときに自分が前と同じモチベーションでやっていけるかって考えたら、それは絶対無理だと思ったんですね。
で、本当に自分を必要としてくれるところでプレイしようということでフリーエージェント宣言をしたんです。後悔は全然なかったですね。だって必要とされるところへ移れるっていうのも、プロ選手としての1つの証だといえるわけですから。


財団法人 産業雇用安定センター刊「かけはし」
2001年7月号より抜粋

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