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第25回 東尾 修 「厳しい実践の中でこそ能力は磨かれる」

―和歌山県の強豪・箕島高校のエースだった東尾氏は、昭和43年秋のドラフト会議で西鉄ライオンズから1位指名を受け、入団する。


最初、西鉄が僕を1位指名したと聞いたときは意外というか、ショックというか、「えーっ」って思いましたよ。地元に近い大阪の球団とかジャイアンツには、事前に指名の挨拶を頂いたんですが、西鉄の場合はコンタクトも何もない。それがドラフト会議になって突然1位指名でしょ。断れば当然、その年はプロ野球に入れないし、もうショック、本当にショックだったですね。
西鉄は当時、万年Bクラスに低迷していてチームに華がないんですよ。それに本拠地は九州でしょ、和歌山育ちの僕にとっては非常に遠いところというイメージがあって、それで最初は非常に迷ったんです。うちに来ないかという大学もあったし、周囲からも西鉄入りに反対の声があった。でも、西鉄にはこの僕を1位指名してくれたという恩義みたいなものがあったし、それになによりもプロ野球に行きたかったんですよね。この機会を逃したら、もうプロに入れるチャンスはないかもしれない、そう考えて、最後は自分の意思を通して西鉄入りを決めたんです。


―しかし、低迷していたとはいえ、西鉄はプロ野球チームだった。春のキャンプに参加した東尾氏は、そこでプロのレベルの高さを思い知らされる。


僕は直球とカーブしかない、どちらかといえば力で押していくタイプのピッチャーだったんですが、その真っ直ぐの球がレギュラークラスの選手には全然通用しないんですよ。練習試合でもコンコン打たれる。それで自信を失って、シーズンがはじまってすぐ、もう5月にはバッターへの転向をコーチに申し出ていたんです。僕はもともと投げるよりも打つほうが得意で、大学から誘われたときも、ピッチャーじゃなくて、野手として来ないかといわれていたんですね。
でも、球団としては、当時相当戦力が落ちていたし、ドラフト1位で獲得した選手だから、やっぱりピッチャーとして使いたいわけですよ。それで1年目は1軍の試合に8試合に登板したんですが、やっぱり結果はよくない。で、来期はバッターに転向するって内々決まっていたところに、黒い霧事件が発生したんですよ。あの事件でチームのエースを含めて、1線級のピッチャーが4人いっぺんにいなくなった。
チームもピッチャーがいないんじゃしょうがないということで、僕のバッター転向は凍結されて、2年目からはもうフル回転で起用されたんです。確か2年目が40試合、3年目が51試合、4年目が55試合かな、登板数、投球回数はもちろんリーグトップですね。そして敗戦数も多くて、3年目は16敗、4年目は25敗して2年連続でリーグの敗戦王になってしまったんですよ。


―登板しては打たれ、という実戦の日々のなかで、東尾氏は必死になって自分のピッチングスタイルを探していった。


まあ基本的には真っ直ぐのスピードがないということなんですよ。じゃあ、どうするかといったら、やっぱりインコースは厳しく投げなくちゃいけない。スライダーも覚えなくっちゃいけない。さらにコントロールも磨いて、自分の思ったとおりのコースヘ、思ったとおりのボールを投げられなくちゃいけないということなんですね。
他のチームの新人はそういったことを練習で覚えていくんですが、僕の場合は、それを全部実戦で覚えていかなくちゃいけない。でも、それが結果的にはよかったんです。監督やコーチ、先輩のアドバイスをすぐに実戦で試してみたり、試合後にスコアラーの人と配給を検証したりして一流レベルの投球術とか、それから野球というゲームの戦略的な側面、たとえば、ここはヒットを打たれてもいい場面だとか、ボールをぶつけてもいいから絶対に長打を打たれちゃいけない場面だとかそういうことをどんどん身につけていったんですね。
それから勝ちにいく執念ですね、当時の西鉄は3試合に2試合は負けていた。だから勝ち目があるときは必死になって勝ちにいく。負けるもんか、絶対に抑えてやると、一流のピッチャーにはそういった執着心が必要なんですが、そういう心構えも自然にできていったですね。
そういうピッチャーとしての技術、戦略眼、心構えがすべて備わったのが入団7年目、50年のシーズンですよ。あの年は23勝を上げて最多勝のタイトルを取ったんですが、あのときはじめて「ライオンズに入ってよかった」と、心の底からそう思いましたよね。


財団法人 産業雇用安定センター刊「かけはし」
2002年1月号より抜粋

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