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第21回 福本 豊 「期待に応えるため観察、研究、工夫の積み重ね」

―ノンプロの名門・松下電器で、俊足・巧打の1番バッターとして活躍した福本氏は、昭和43年のドラフト会議で阪急ブレ−ブスから7位指名を受け、入団する。


僕は身長が168センチしかないんです。だから最初からプロ行きは無理だと思っていたし、ドラフトにかかるなんてことは夢にも思ってもいなかったんですよね。ところが、松下電器の3年目、都市対抗に出て優勝した年のことなんですが、阪急のスカウトが同僚の加藤秀司の練習を見に来たんですよ。
加藤も後に名球会の会員に名を連ねた長距離バッターなんですが、スカウトの方は、どうも加藤の練習をみたついでに僕のことにも注目して、当時の西本幸雄監督に「背は低いけど、足の速い選手がいる。ピンチランナー要員で引っ張ったらどうか」と報告したみたいなんですよ。で、ドラフト会議では当然、加藤を1位指名したうえで、僕のことを7位で指名してくれたんです。まあハッキリいって僕は、加藤の付録みたいなかたちで、プロの世界に入っていったんです。


―入団2年目の45年のシーズン、福本氏は開幕早々からセンター・1番のレギュラーポジションを獲得。75盗塁を記録して盗塁王のタイトルを手中にする。


入団1年目から1軍のベンチに入れてもらっていたんですが、代走要員、守備要員という起用ですね。まあチームにはいろいろな役割を果たす選手が必要ですから、僕なんかもピンチランナー要員でいいやと、それでプロの試合に出られるなら満足という感じがあったんですよ。
だいたい打撃がダメだったですね。フリーバッティングでも詰まってばかりで、球が外野に飛んで行かない。ピッチャーの投げる球が速すぎて、どうしてもバットの芯にボールが当たらないんです。それで必死になってバットを振って、だんだん打球がセカンドの頭上を越すようになったときに、たまたま1番を打っていた先輩がケガをして戦列を離れた。で、福本、センターを守れということになって、そのままセンター・1番でレギュラー出場するようになったんですね。


―13年連続盗塁王に輝いた福本氏だが、圧巻だったのは47年、24歳のときにつくった年間106盗塁という前人未到の大記録だった


ピッチャーというのは1人ひとり癖を持っているんです。何かあったときに手で頭を触る人、足を交差させる人、肩のひねりの角度の異なる人、顔の上がりの違う人、とにかくいろいろあるんですが、僕が何をやったかというと、その癖とか特徴、動きの違いをベンチとか塁上でじっくりと観察したんですね。
また癖のわからんピッチャーの場合は、盗塁するぞという格好をして、わざと牽制球を投げさせて、そのときの動きの特徴や癖を見破っていく。そういう観察、研究、工夫をして、この動作のときは牽制球を投げるとか、このときはホームにボールを投げるといったことをつかんでいくんです。
まあ106盗塁やったときは、だいたい相手ピッチャーの癖はわかっていましたね。とにかく塁に出ると、当然のようにベンチから盗塁のサインが出てくる。ピッチャーの仕種、投球の組み立て、キャッチャーの癖なんかが頭のなかでグルグル回っていて、身体は身体でヨーイドンの体制をつくりあげる。で、牽制しないなと判断した瞬間、ドンッと走りだすんです。
やっぱり期待に応えつづけなくちゃいけないということは辛いですよ。盗塁するにはヒット打ったり、フォアボール選んだりして、とにかく塁に出なくちゃいけない。やっと1塁に出たと思ったら、今度は盗塁しなくちゃいけない。マークきついですから牽制、牽制で、そのなかで一瞬の隙をみつけて走って、それでセーフにならなくちゃいけない。
ファンもベンチも、もうセーフになるのは当たり前と思ってますから、その当たり前をずっと維持しつづけることの辛さですね。難しいし苦しい。でも、それが1番バッターの仕事だし、それをこなせない選手はやっぱり外されていきますからね、とにかく頑張るしかない。
よくプロとアマの違いは何ですか、という質問を受けることがあるんですが、1番の違いは少々のケガや故障じゃ休まないとういことですね。僕も若いころは先輩に「ケガで足が痛い?黙って試合に出とけッ」ってよくいわれたもんですよ。休んだら他の選手にポジション奪われる、だから少々のケガや故障は隠せ、監督に教えるな、というのがプロの選手の世界ですよ。そんなときは普段わがまま勝手な同僚たちがいろいろカバーして助けてくれたりね、そういうこともあるのがプロの世界なんです。


財団法人 産業雇用安定センター刊「かけはし」
2001年9月号より抜粋

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